帰宅。

部誌の作成のち友人宅で映画パトレイバー1の上映会で押井守のセンスにシビれてそれから寝て起きて今です。

小説できました。てっち〜さんからもらった単語でつくったヤツ。
とりあえずアップしようかと思いますが、個人的には現段階で公開してもいいものか?と躊躇中。もう印刷しちゃったんだけど。でも〆切の朝に半分書き上げたもんだし。
いや、でもどうするか・・?

あーもぅ、公開!
後半とかなんか特に粗いけどそこらへんは許してね?

ちなみにキーワードくれたてちさんに感謝。

梵さんにもらったキーワードでも書く予定ですが、できるかどうかわかりません(´д`;)
でも考え付いた話は個人的に好き。がんばります。

では公開↓


夕暮れの空に、二羽の鴉が舞っていた。
戯れるように飛ぶその二つの黒い影を、夜が始まろうとしている赤い空の中に見ていると、
頭の中のどこかが、うっすらと霞がかったようにぼんやりとしてしまう。
僕は、この光景の中に何を見ているのだろうか?
遠ざかっていく烏たちを見ながら、そんな思考を巡らせてみる。
 時刻はもう六時に迫ろうとしていた。
夕暮れ時―――それは、活発に働いていた街が、ゆるやかに休息へと向かう時間だ。

下校口から正門までの道に、早めに部活を終えて帰宅する生徒たちによって人の流れがつくりだされている。
その緩やかな流れからは学校からの開放感と部活の疲れとが半々にブレンドされた話声や、笑い声、さらにはすっとんきょうな奇声までも聞こえてくる。
人の間を縫って、メットをかぶった自転車通学生がスルスルと通り抜けていく。
彼らが歩く先、正門の方向はちょうど西で、今の季節には夕陽に向かって歩いているということになる。
照りつける夕陽を全身で受ける彼らは、赤く染められながら、楽しげに笑っている。
僕は、そんな彼らを、グラウンドを隔てた木立の間から、ただ眺めていた。
陽が当たらない木陰で、古ぼけた木製のイスにぼんやりと座りながら。
傍らには教科書が詰まったバックが一つっきり。
何の装飾もされていなく、してもいないそれは、かなり地味で陰気な雰囲気を醸し出している。
風が木立の合間を吹き抜け、木の葉の群れがさわさわと鳴った。
それは、僕の全身をも撫で、そして髪をフワリと揺らめかせた。
さっきの疑問がもう一度現れてくる。
 僕は一体、何を見たいんだろうか?

乾ききったグラウンドには、マラソンのコースを示す一周の白線が敷かれ、そして縦横無尽にラインが走っている。
誰かに蹴り飛ばされたり、踏まれたり、雨に溶けたりして、ぼやけたり途切れたりしているけれども、なおそれらは意味を成している。
空に目を向ける。
刷毛で大雑把にはいたような雲が広く空に広がり、夕陽を受けて、赤と黄色、そして藍色が混ざった色彩が、浮かんでいた。
空の遥かにある夕日に目を向けると、赤い円は、あと少しで山脈へと落ちようとしていた。
―――夜が来る。
そのことに気付いたとき、なぜか僕は、ぞくりと背筋に走るような奇妙な冷たい恐怖を感じた。
視線は地面を向いている。
力を込めていると、グラウンドの土とが微妙に入り混じり、しおれた草花が地味な色合いで生え繁っているそこをただじっと見つめていた。
グラウンドの向こう側から聞こえてくる生徒達のざわめきが、遠く耳に響いた。
 荒く息を吐いているうちに、やがて気分も収まってきた。
と、同時に、今まで感じていた、とらえようのない恐怖に対して、自嘲のようなおかしさがこみ上げてきた。
(帰ろ・・・)
そして、ぼーっとすることに見切りをつけ、家に帰ろうと傍らのバックをつかもうとしたその時。
不意に、自分の前に人が立っていることに気付いた。
ハッとして顔を上げる。
その人物は、いつの間にか、そこにいた。
燃え立つような夕日を背に受けて、こっちを向いている顔は、影になっていておぼろげにしか見えない。
来ている制服から考えるに、どうやらこの学校女子生徒らしかった。
髪は短髪。
身長はちょうど僕と同じくらい。
はっきりとは見えない顔からは、じっと僕を見つめる視線だけが、確かに感じ取れた。

「何してるの?」
唐突に彼女がしゃべった。
魔法のような現れ方とは裏腹に、普通っぽい感じの声だった。
まるで街中であった友達に話しかけるみたいに。
「え・・?・・別に何も」
無難に答えてみる。
「嘘。さっきから何か見てたでしょ」
その声も、落し物しましたよ、的な軽い感じの口調だった。
「いや・・本当に何もしていないよ。ただぼーっとしてただけ。あっちの方、見るともなしに見てたって感じで」
当初の驚きもゆっくりと静まり、落ち着いて相手を見ることができた。
目が慣れて、影が落ちていた表情も読み取ることができる。
声と同じように、その表情も特に変わったところのない、平然としたものだった。
「ふーん・・」
まだ何かもの言いたげに口をつぐむが、彼女はそれ以上何も言わなかった。
そして、こっちに向かって歩き出し、僕のすぐ隣に立った。
陽光を受け、顔が露わになる。ちょっとおとなしめな、一見どこにでもいそうな感じの顔だった。しかしその表情は、どこかおぼろげな、とらえどころのないような不思議なものだった。
「君、誰?」
顔を向けて問いかけてみた。
ウチの制服を着ているとはいえ、今まで見かけたことはなかった。
「わたしのことなんてどーでもいいじゃん」
つっけんどんな答えに少々意表をつかれる。
「じゃ、君さっき何してたの?いきなり目の前に出てきただろ。」
その問いに、彼女はこっちを向いて、
「・・キミがここに座ってるのが見えたから。だから、近づいてみようかなって思って」
さらっと答えた。
「・・・・・・なんで?」
少々想定外の答えを返してくる彼女に、軽く戸惑いながらも言った。
「あたしと同じような目、してたから」
「目・・・?」
「そ。目」
互いの視線が重なり合う。
僕を見つめるその視線は、やっぱりとらえどころがない。
ちょっとだけそのままでいたけど、彼女はすぐに視線を外し、まっすぐに夕日に向かって顔を向けた。
僕もつられるように顔を向ける。
さっきよりも太陽は傾いてた。
もうすぐ、山に落ちてしまうだろう。
「キミ、美術部だよね」
「・・・そうだけど」
「飾ってあった絵、見たんだ。それでキミのこと、気になった」
軽く驚いてもう一度振り返る。
彼女が言う美術室に飾ってある絵は、何の気なしに描いた絵だった。
部活の時間に、特に何も考えず、思いつくままに目の前のキャンバスに色を塗り輪郭をつけていった作品。
そうしてできあがった作品は、正直自分でも何がなんだかわからない
ものだったけれど、とりあえず美術室に飾っておいたという、何の意図も意味もないものだった。
あの絵を見て僕に興味を持つ人がいるなんてことは、正直思いつきもしなかった。
「この絵を描いた人は、わたしと同じようにこの世界を見てるんだって、わかった」
そして彼女は、もう一度こっちを向いた。
その視線は、さっきよりは、かすかになんらかの色を帯びているように見えた。
僕をおもしろがっているような、あるいはそのことを伝えるのが楽しくて仕方がないというような瞳の色。
「ね。わたしの名前、知りたい?」
彼女は言った。
また、緩やかな風が吹いた。
夕日は、半ば姿を消そうとしている。
徐々に黒さを増していく世界の中で、残り少ない夕日の赤は、微笑む彼女の顔を彩っていた。
「・・・・・うん」
うなづき、答えた。
「じゃあ、ゲームをしよう」
「・・・・・え?」
またもや唐突に彼女は言った。
「・・ゲーム?」
「そ。ゲーム。景品はわたしの名前」
「・・・・」
最初の登場の時から薄々感づいていたけど、やっぱこの人は変な人なんだ
なぁ・・・と、二の句をつなげないままでいると、彼女はクルリと踵を返し、横へ向かって歩きだした。
僕もやると宣言した以上参加をせねばならないので、立ち上がり彼女の後を続く。ちなみにバッグは置いたまま。
今まで座っていた視点からでしか彼女のことを見ていなかったけど、立って彼女を見てみると、少しだけ、僕の方が背が高いようだった。
にしても、やっぱり彼女のことは、今までに一度も見たことがなかった。
全校生徒全てを知っているわけではもちろんないが、一度たりとも姿を見たことがないというのは、少し不思議だった。
追いついて、隣に並び、何をするのかと聞こうとしたところ、
「あれ」
と、彼女はいい、そして指をさした。
指先が向かうところには、鬱蒼と茂る雑木林から抜き出るように、
一つの時計塔が立っていた。
しかし、時計塔とは呼ぶものの、それは地面にそこはかとなく太いポールをぶっさして土台をコンクリートで固め、上の先っちょに時計を乗っけてみた、といった感じのシンプルかつ貧相なものだ。
けど、その時の刻みは正確で、開校以来このグラウンドで活動する運動部、もしくは遅刻しそうな生徒たちへと教え続けている。
そして今も、不思議なシチュエーションの只中にいる僕へと、いつも通りに
現在時刻は六時二分前と黙々と告げていた。
「時計台?」
不思議そうに問う僕に、
「そ、時計台。」
と、彼女は返した。
「こっから目をつむって歩いて、六時になった時に時計塔にさわっていれたなら、あたしの名前を教えてあげるよ」
「・・・なるほど」
その行為に何の意味があるのか、彼女のペースに巻き込まれっぱなしの僕には皆目見当がつかないが、まぁゲームはゲームだ。
意味なんてわからなくてもできるし、そもそも意味なんてないのかもしれない。
でも、僕は一つだけ彼女に聞いた。
「ところでさ、なんで今日、僕に声をかけようって思ったの?」
「・・なんとなく、キミが声をかけてもらいたそうにしてたからかな?」
またもやよく理由がわからない返答だ。
でも、僕は、それで、半分くらいは納得できたのだった。
足を一歩踏み出して、彼女より前へ出る。
「じゃ、ゲーム開始」
僕は言う。
「うん」
彼女は答えた。
そして、時計塔の長針が、また一つ時を刻んだ。

山の向こうの太陽は、もうすでにその姿を隠そうとしていた。
辺りは薄く青い闇が沈殿している。
時計台までの距離は、だいたい七歩程度だった。
このぐらいの距離なら、いけるような気がする。
目を瞑り、そして歩き出す。
真っ黒いカーテンが目の前に降りたように、何も見えなくなる。
三歩、四歩と足を踏み出していくと、少しずつ怖さが腹の底からしみ出してくる。
時計塔までは何も障害物もないはずだが、見えない恐怖と共に、自分がまっすぐに進んでいるかどうかという不安も心を侵していく。
元より覚悟していた感情だが、実際感じるとやはり心がグラついてしまう。
五歩、六歩目ともなると、もうこのまま行くしかないとかえって開き直ることになる。
そして七歩、八歩目。
コツリと、スニーカーの先がコンクリートへと当たった。
目を開く。
目の前には赤錆にまみれた金属のポールがあり、その下にはコンクリートの台座がしっかりと置かれていた。
ゆっくりと手を伸ばし、ポールに軽く指で触れる。
そして、そのポールの先を追うように、上を見る。
少々急角度で見悪いが、真ん丸い時計は、六時一分前を指している。
そして、その時計の向こうにはは、濃い藍色の空が広がっていた。
僕はそのまま、薄く藍色に彩られた雲がゆっくり動いていくその空を、ただ見つめていた。
なんだか、自分もあの雲のような、ふわふわとあやふやなものであるような気分だった。

 数秒もそのままでいただろうか。
カチリ、と長針が12を指し、校舎中のスピーカーから、部活終了を告げるチャイムの音が鳴り響いた。
と、同時に、目の前がパッと白く明るくなる。
突然の光に慣れず、思わず目を細める。
その光は、グラウンドに設置されたライトが一斉についたものだった。
そして徐々に目が慣れていくにつれて、あたりの様子がはっきりと映し出された。
今まで、彼女が作り出していた不思議な雰囲気もどこかに吹っ飛んで、少々興を削がれた気持ちになる。
しかし、まぁ、これでゲームは成功したことになる。
ずっとポールに触れ続けていた指を離し、彼女を方へと振り向いた。
しかし、八歩後ろにいるはずの彼女の姿は、その光景のどこにもなかった。
名前を呼ぼうとしたけれど、その呼ぶ名前を教えてもらうためにゲームをしていたのだと気付いて、結局声は出なかった。
彼女は登場と同じく、忽然と消えてしまった。
でも、僕はそれも彼女ならアリかな、と思った。
しばらくそこに立ってあたりを見回していたけど、
やがてイスへと向かうことにした。
目を瞑って歩いてきた道を逆に歩く。
煌々と照らされるまばらに生えた草むらは、歩くのに何の不都合もない。
彼女の名前は、結局何だったのだろうか。
イスの元へと辿り着いたときに、ふとそう思った。
そして、傍らに投げ出されたバッグを拾おうとした時、その地味なバッグの上に一つのメモが置かれているのに気付いた。
長方形の小さな紙には、こう書かれていた。

「つきあってくれてありがと、雅人くん。
今度会うときは、もっと長く話をしよう。
それじゃね。 志穂」
ライトに照らされるその簡潔な文章を読んで、僕は少しだけ微笑んだ。